ねじ新聞 オノナビvol.11 ねじの熱処理について
ねじの熱処理について
通常、熱処理は「硬化」「機械的強度の向上」「靱性の付与」「組織の調整」「軟化」などを目的として行われます。
ねじにおける主な熱処理は、「焼き入れ」「焼き戻し」「焼きならし」「焼きなまし」の4つ。用いられる熱処理の方法は、ねじの材料となる鋼種や、対象製品の使用状況などにより異なります。
ここでは、代表的な熱処理である「焼き入れ焼き戻し処理」についてご紹介します。
浸炭焼入れ焼き戻し処理について
浸炭焼入れ焼き戻し処理は、「鋼の表面だけを硬くし、内側の粘りを維持する」ために行われます。この処理法では、金属の表面に硬い炭素を拡散浸透させること(浸炭)で、通常の焼入れよりも表面硬度を向上させます。
炭素量が多い表面だけが硬くなり、炭素が少ない内部は粘りを維持するため、硬度と靱性を両立させることができるのです。
浸炭焼入れ焼き戻し処理の使用例
雌ねじを必要としないタッピンねじは、自ら相手材の鉄板に雌ねじを成形していくため、硬いネジ山が必要です。そのためタッピンねじの「焼き入れ」には、通常の熱処理よりも表面を硬くできる「浸炭焼き入れ」を行います。
タッピンねじの材質となるSWCH16A〜18Aは、浸炭ガス(炭素を与えるガス)層の中で、900℃近い温度で「焼き入れ」をすることで、炭素を吸収した表面が硬くなります。
焼き入れの後は金属組織を安定させるため、300℃〜400℃の温度で「焼き戻し」を行います。
無酸化焼入れ焼き戻し(調質)処理について
無酸化焼入れ焼き戻し処理は、「調質焼き入れ」とも呼ばれます。焼き入れの後で比較的高温で焼き戻しを行うことで、必要な硬度を得るとともに、硬さと靱性を調整することができます。
無酸化焼入れ焼き戻し(調質)処理の使用例
強度区分12.9や強度区分10.9など、高強度を保証しなければならない六角穴付きボルト(キャップスクリュー)などに用いられます。硬さとともに、破断を起こさない粘りを求められるため、無酸化焼入れが適しています。
六角穴付きボルトの材質となるSCM435は炭素量が多く、焼き入れ性に優れています。800℃〜900℃で焼き入れした後、450℃〜550℃で焼き戻しすることで、硬くて粘りのある組織に調質されます。
真空窒化焼入れ焼き戻し処理について
真空窒化焼入れ焼き戻し処理は、金属の酸化を防止するため真空中で加熱します。表面を硬化させる窒化処理と窒素ガスによる焼き入れを行った後、脆性を回復させるため焼き戻し処理を行います。
真空窒化焼入れ焼き戻し処理の使用例
マルテンサイト系ステンレス(SUS410タッピング類など)の熱処理に適しています。
ちなみに、小ねじやボルトなどに使われるオーステナイト系ステンレス(SUS304やSUSXM7など)に焼き入れを行うと、逆に柔らかくなる性質があります。
この現象を固溶化といい、圧造性や耐食性を向上させたり、応力を除去したい場合に用いられます。